【後編】万が一に備える初動対応マニュアル~レクリエーション中のケガ・事故のとき主催者がやるべきこと~

【後編】万が一に備える初動対応マニュアル~レクリエーション中のケガ・事故のとき主催者がやるべきこと~

公開日
2025年11月5日
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前編では、レクリエーション中に事故が発生したときの初動対応について紹介していきました。
後編では、事故が起きても後から慌てないで済むためのポイントを深堀りして紹介していきます。


事故が発生したときに記録すべきポイントとは?

  【後編】万が一に備える初動対応マニュアル~レクリエーション中のケガ・事故のとき主催者がやるべきこと~(1-1)事故が発生したときに記録すべきポイントとは?

事故が発生した直後から、時間の経過とともに記憶は曖昧になっていきます。
そのため、応急対応が一段落したら、可能な限り早期に事故の記録を開始することが重要でとなります。

ここからは情報をきちんと整理してまとめられるよう、事故発生時に記録すべきポイントについて紹介します。
5W1Hによる整理
事故記録の基本となるのは、「いつ(When)」「どこで(Where)」「誰が(Who)」「何を(What)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」という5W1Hの観点からの情報を整理するとまとめやすいです。

「いつ」については、事故発生の正確な時刻だけでなく、活動開始からの経過時間、休憩の有無、天候の変化なども記録します。

「どこで」は、施設内の具体的な場所、床材の種類、周囲の環境、照明の状況なども含めて詳細に記録します。

「誰が」では、被害者本人の情報だけでなく、発見者、最初に対応した人、現場にいた参加者なども記録対象となります。
事故発生時の環境条件
事故の原因分析と再発防止のために、発生時の環境条件を詳細に記録することが必要です。

屋内であれば室温、湿度、換気の状況、床の材質、清掃状態、備品の配置などを記録します。
屋外の場合は、気温、湿度、風速、路面状況、日射の有無などが重要な情報となります。

また、音響設備の音量レベル、参加者の密度、スタッフの配置状況など、事故に影響を与えた可能性のある要因も幅広く記録します。

これらの情報は、後日の事故分析や類似事故の防止策検討において重要な資料となるので、可能な限り詳細にまとめましょう。
目撃者の証言収集
事故の瞬間を目撃した人がいる場合は、記憶が新しいうちに証言を記録しておくことが重要です。

目撃者それぞれから独立して話を聞き、証言内容に食い違いがある場合でもそのまま記録しましょう。

また、証言の記録は、可能であれば目撃者本人に書面で記載してもらい、署名をもらうことが望ましいです。

口頭での聞き取りの場合は、聞き手と記録者を分けて、複数人で確認しながら正確に記録すると良いです。
目撃者の氏名、連絡先、事故現場での位置なども併せて記録しておきましょう。
医療対応の記録
事故発生から医療機関への引き継ぎまでの間に行った応急処置について、時系列に沿って詳細に記録します。

何時何分にどのような処置を誰が行ったか、被害者の反応はどうだったか、症状に変化はあったかなどを具体的に記載します。

例えば、「14時35分、意識レベル確認、呼びかけに反応あり」「14時37分、○○職員がガーゼで頭部出血部位を圧迫止血開始」「14時40分、被害者より頭痛の訴えあり、吐き気はなし」といった具合に、処置内容と被害者の状態変化を時系列で記録できると良いでしょう。
救急隊・医療機関との連携記録
救急隊が到着してからの引き継ぎ内容、搬送先の医療機関、搬送時の被害者の状態なども重要な記録事項です。

救急隊員への情報提供内容、隊員から受けた指示やアドバイス、搬送時刻なども記録します。

ただし、医療情報の取り扱いには個人情報保護の観点から注意が必要で、本人や家族の同意を得てから記録することが重要です。

参加者・家族への伝え方と配慮

  【後編】万が一に備える初動対応マニュアル~レクリエーション中のケガ・事故のとき主催者がやるべきこと~(2-1)参加者・家族への伝え方と配慮

事故が発生した際の家族への第一報は、その後の関係性を大きく左右する重要なコミュニケーションです。

ここではどんなことに気を付けて連絡すべきか、具体的に紹介していきます。
冷静さを第一に
連絡を取る職員は、自分自身が動揺していても、それを相手に伝えないよう意識的に冷静な態度を保つことが求められます。

おすすめは電話をかける前に、伝えるべき内容を整理し、簡潔なメモを用意しておくこと。

また、相手が混乱してしまわないよう、最も重要な情報(現在の安全な状況)を最初に伝え、その後で事故の概要を説明する順序を心がけます。
「○○さんは意識もはっきりしており、現在医師の診察を受けています」といった安心できる情報を冒頭に持ってくることで、相手の心理的負担を軽減できます。
事実に基づく正確な情報提供
家族への説明では、推測や憶測は避け、確認できている事実のみを伝えることが原則です。

憶測で話してしまい、後で事実と異なることが判明した場合、家族の信頼を大きく損なうことになりかねません。

「おそらく」「たぶん」といった曖昧な表現は使わず、「現在分かっていることは」「医師によると」「検査の結果」などの前置きを意識して使うことで情報の確実性を示しましょう。

不明な点については、「現在確認中です」「詳しい検査結果を待っている状況です」と正直に伝え、いつ頃に詳細な情報を提供できるかの見通しも併せて伝えるとなお良いです。
専門用語を避けた分かりやすい説明
医療や事故に関する専門用語は、一般の方には理解が困難で、かえって不安を増大させる可能性があります。

「脳震盪の疑い」ではなく「頭を強く打ったため、念のため詳しい検査を受けています」、「裂傷」ではなく「切り傷」といった具合に、日常的に使われる言葉に置き換えて説明しましょう。

どうしても専門用語を使わざるを得ない場合は、その意味を分かりやすく補足説明します。

また、相手の理解度を確認しながら話を進め、「何かご不明な点はございませんか」といった確認の問いかけを適切に挟むことで、コミュニケーションの質を高めることができます。
継続的な連絡と心理的配慮
事故発生後は、家族の心配を軽減するため、新しい情報がなくても定期的に連絡を取ることが重要です。

「変化がない」ということ自体が安心材料になる場合も多く、「先ほどお伝えした通り、状態は安定しています」といった確認の連絡も意味があります。

連絡の頻度については、事故の重大さや家族の心配度に応じて調整しますが、一般的には重要な段階(診察、検査、治療)ごとに連絡し、それ以外でも半日から1日に1回程度は状況報告を行います。

連絡の時間帯についても、家族の都合を考慮し、深夜や早朝は緊急時以外は避けるよう配慮しましょう。
感情への配慮と共感的対応
被害者の家族は事故の知らせを受けて、驚き、不安、怒り、自責の念など様々な感情を抱くことが考えられます。

これらの感情は自然な反応であることを理解し、否定したり諌めたりせずに受け止める姿勢が重要です。

「ご心配をおかけして申し訳ありません」「お気持ちはよく分かります」といった共感的な表現を使い、家族の感情に寄り添う態度を示します。

一方で、過度に感情的になった家族に対しても冷静さを保ち、建設的な対話ができるよう努めることも大切です。

感情的な発言に対しても理解を示しつつ、事実に基づいた話し合いに導くことが必要です。
今後の見通しと支援の提案
家族が最も知りたがる情報の一つが「今後どうなるのか」という見通しです。

医学的な予後については医師の判断を待つ必要がありますが、施設としての対応方針、保険の適用、必要な手続きなどについては、分かる範囲で情報提供しましょう。

また、家族が病院に駆けつける際の交通手段、宿泊が必要な場合の宿泊先、仕事の調整など、実務的な支援についても相談に応じます。

「何かお手伝いできることがあれば遠慮なくお声かけください」といった言葉を具体的な支援提案とともに伝えることで、家族の負担を軽減できます。
謝罪について
事故発生時の謝罪は、法的責任の認定とは別の人道的な対応として理解することが重要です。

「このような事故が起きて申し訳ございません」「ご心配をおかけして誠に申し訳ありません」といった、事故の発生そのものに対する謝罪は、責任の所在が明確でない段階でも行うべき対応だと言えます。

ただし、過失の認定や法的責任に関わる発言は避け、「私たちの責任で」「私たちが悪かった」といった表現は慎重に使う必要があります。

謝罪と責任認定は別の問題であることを理解し、人道的な配慮と法的な対応を区別して行いましょう。

もし家族から責任の所在について問われた場合は、「現在、事故の原因について詳しく調査しており、結果が分かり次第、きちんとご報告させていただきます」といった回答に留めましょう。

組織として正式な見解をまとめる前に、個人的な意見や憶測を述べることは、後の対応を困難にする可能性があります。

分からないことは分からないと正直に伝え、調査に時間がかかる場合はその旨を説明し、定期的な進捗報告を約束することが重要です。

安心につながるイベント運営のためにできる備え

  【後編】万が一に備える初動対応マニュアル~レクリエーション中のケガ・事故のとき主催者がやるべきこと~(3-1)安心につながるイベント運営のためにできる備え

レクリエーション活動において最も重要なのは、事故が起きてから慌てて対応を考えるのではなく、万が一の事態に備えて事前にしっかりとした準備をしておくことです。
事故発生時の「フローチャートの作成・共有」がおすすめ
準備の良し悪しは、いざという瞬間の迷いをどれだけ減らせるかに直結します。

そこで力を発揮するのが、現場に合わせて作り込んだ「事故発生時のフローチャート」。

紙一枚の道筋があるだけで、誰が見ても同じ判断にたどり着け、声がけも手順も揃います。

とくに学校や福祉施設、地域行事のように当日のスタッフ構成が変わりやすい現場では、個人の経験に頼らず、チームで共通の「行動言語」を持つことが安全の土台となります。

作る段階では、会場図と人の流れを頭に思い浮かべながら、最初の一声から搬送の引き継ぎまでを一本の線で描いていきます。

抽象的なスローガンではなく、具体的な動作と言葉に落とし込むのがコツです。

たとえば「AEDを取りに行く」ではなく「入口脇の赤いケースを開ける」「鍵は不要」「戻ったらすぐ電源を入れて音声に従う」といった具合に、現場の目印や動線まで入れておくと、緊張下でも比較的スムーズに対応を行うことができるでしょう。

終了後の振り返りと改善で次のイベントも事故0を目指す

フローチャートは作って終わりではなく、運用して育てる道具です。

イベント終了後は、事故対応フローチャートが実際にどの程度役立ったか、改善すべき点はなかったかを振り返ることが重要です。

事故が発生しなかった場合でも、ヒヤリハット事例や、「もしもの時はどうだったか」という観点からフローチャートの有効性を検証することで次回のイベント時にもより安全な親交が可能となるでしょう。

記事のまとめ

  【後編】万が一に備える初動対応マニュアル~レクリエーション中のケガ・事故のとき主催者がやるべきこと~(4-1)記事まとめ

レクリエーション活動中の事故は予期できないタイミングで発生しますが、適切な初動対応により被害を最小限に抑えることができます。

本記事でお伝えした「安全確保→応急手当→報告連携」の3ステップを基本として、日頃から事故対応フローチャートを作成し、スタッフ全員で共有しておくことが何より重要です。

事故発生時は冷静な判断が困難になりがちですが、事前に準備されたフローチャートがあれば、パニック状態でも適切な行動を取ることができます。

完璧な事故防止は困難ですが、しっかりとした備えと訓練により、参加者が安心して楽しめるレクリエーション環境を提供することは可能です。

この記事を参考に、皆さんの現場でも実効性の高い安全管理体制を構築していただければと思います。

参考資料

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