参加者・家族への伝え方と配慮
事故が発生した際の家族への第一報は、その後の関係性を大きく左右する重要なコミュニケーションです。
ここではどんなことに気を付けて連絡すべきか、具体的に紹介していきます。
冷静さを第一に
連絡を取る職員は、自分自身が動揺していても、それを相手に伝えないよう意識的に冷静な態度を保つことが求められます。
おすすめは電話をかける前に、伝えるべき内容を整理し、簡潔なメモを用意しておくこと。
また、相手が混乱してしまわないよう、最も重要な情報(現在の安全な状況)を最初に伝え、その後で事故の概要を説明する順序を心がけます。
「○○さんは意識もはっきりしており、現在医師の診察を受けています」といった安心できる情報を冒頭に持ってくることで、相手の心理的負担を軽減できます。
事実に基づく正確な情報提供
家族への説明では、推測や憶測は避け、確認できている事実のみを伝えることが原則です。
憶測で話してしまい、後で事実と異なることが判明した場合、家族の信頼を大きく損なうことになりかねません。
「おそらく」「たぶん」といった曖昧な表現は使わず、「現在分かっていることは」「医師によると」「検査の結果」などの前置きを意識して使うことで情報の確実性を示しましょう。
不明な点については、「現在確認中です」「詳しい検査結果を待っている状況です」と正直に伝え、いつ頃に詳細な情報を提供できるかの見通しも併せて伝えるとなお良いです。
専門用語を避けた分かりやすい説明
医療や事故に関する専門用語は、一般の方には理解が困難で、かえって不安を増大させる可能性があります。
「脳震盪の疑い」ではなく「頭を強く打ったため、念のため詳しい検査を受けています」、「裂傷」ではなく「切り傷」といった具合に、日常的に使われる言葉に置き換えて説明しましょう。
どうしても専門用語を使わざるを得ない場合は、その意味を分かりやすく補足説明します。
また、相手の理解度を確認しながら話を進め、「何かご不明な点はございませんか」といった確認の問いかけを適切に挟むことで、コミュニケーションの質を高めることができます。
継続的な連絡と心理的配慮
事故発生後は、家族の心配を軽減するため、新しい情報がなくても定期的に連絡を取ることが重要です。
「変化がない」ということ自体が安心材料になる場合も多く、「先ほどお伝えした通り、状態は安定しています」といった確認の連絡も意味があります。
連絡の頻度については、事故の重大さや家族の心配度に応じて調整しますが、一般的には重要な段階(診察、検査、治療)ごとに連絡し、それ以外でも半日から1日に1回程度は状況報告を行います。
連絡の時間帯についても、家族の都合を考慮し、深夜や早朝は緊急時以外は避けるよう配慮しましょう。
感情への配慮と共感的対応
被害者の家族は事故の知らせを受けて、驚き、不安、怒り、自責の念など様々な感情を抱くことが考えられます。
これらの感情は自然な反応であることを理解し、否定したり諌めたりせずに受け止める姿勢が重要です。
「ご心配をおかけして申し訳ありません」「お気持ちはよく分かります」といった共感的な表現を使い、家族の感情に寄り添う態度を示します。
一方で、過度に感情的になった家族に対しても冷静さを保ち、建設的な対話ができるよう努めることも大切です。
感情的な発言に対しても理解を示しつつ、事実に基づいた話し合いに導くことが必要です。
今後の見通しと支援の提案
家族が最も知りたがる情報の一つが「今後どうなるのか」という見通しです。
医学的な予後については医師の判断を待つ必要がありますが、施設としての対応方針、保険の適用、必要な手続きなどについては、分かる範囲で情報提供しましょう。
また、家族が病院に駆けつける際の交通手段、宿泊が必要な場合の宿泊先、仕事の調整など、実務的な支援についても相談に応じます。
「何かお手伝いできることがあれば遠慮なくお声かけください」といった言葉を具体的な支援提案とともに伝えることで、家族の負担を軽減できます。
謝罪について
事故発生時の謝罪は、法的責任の認定とは別の人道的な対応として理解することが重要です。
「このような事故が起きて申し訳ございません」「ご心配をおかけして誠に申し訳ありません」といった、事故の発生そのものに対する謝罪は、責任の所在が明確でない段階でも行うべき対応だと言えます。
ただし、過失の認定や法的責任に関わる発言は避け、「私たちの責任で」「私たちが悪かった」といった表現は慎重に使う必要があります。
謝罪と責任認定は別の問題であることを理解し、人道的な配慮と法的な対応を区別して行いましょう。
もし家族から責任の所在について問われた場合は、「現在、事故の原因について詳しく調査しており、結果が分かり次第、きちんとご報告させていただきます」といった回答に留めましょう。
組織として正式な見解をまとめる前に、個人的な意見や憶測を述べることは、後の対応を困難にする可能性があります。
分からないことは分からないと正直に伝え、調査に時間がかかる場合はその旨を説明し、定期的な進捗報告を約束することが重要です。