【前編】万が一に備える初動対応マニュアル~レクリエーション中のケガ・事故のとき主催者がやるべきこと~

【前編】万が一に備える初動対応マニュアル~レクリエーション中のケガ・事故のとき主催者がやるべきこと~

公開日
2025年11月5日
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楽しいはずのレクリエーション活動で、予期せぬケガや事故が起きてしまったとき、主催者として最初に何をすべきか迷ってしまうことはありませんか?
文部科学省の調査によると、学校管理下での事故は年間約100万件発生しており、その中でもレクリエーション活動中の事故は決して少なくありません。
この記事では、万が一の事態に冷静かつ適切に対応できるよう、事故が起きた瞬間の衝動対応について解説しています。
後編では事故発生時の記録の作成方法や、ご家族への連絡まで、段階を追って詳しく解説します。


レクの現場で事故はなぜ起きるのか?(典型例と背景) 体力の過信と無理な動きによる事故

  【前編】万が一に備える初動対応マニュアル~レクリエーション中のケガ・事故のとき主催者がやるべきこと~(1-1)レク現場でなぜ事故は起こるのか

レクリエーション現場で最も多い事故パターンのひとつが、参加者が自分の体力を過信して無理な動きをしてしまうケースです。

特に大人の参加者に多く見られる傾向で、「若い頃はもっとできた」「これくらいなら大丈夫」という気持ちが事故につながることがあります。

運動会での綱引きで腰を痛める保護者、レクダンスで急激な動きをして膝を捻挫する参加者、球技で無理なジャンプをして着地に失敗する事例などが典型的です。

これらの事故は、参加前のウォーミングアップ不足や、個人の体力レベルに合わない強度の活動が原因となることが多いのです。
体調不良を隠した参加による事故
当日の体調や気分が良好でないにも関わらず、「せっかくだから参加したい」「迷惑をかけたくない」という理由で無理をして参加し、結果として事故につながるケースも頻発しています。

軽い風邪気味でも参加して熱中症になってしまう、前日の疲労が残っているのに激しい運動をして転倒する、持病の薬を飲み忘れて体調を崩すなど、体調管理に関連した事故は重篤化しやすい特徴があります。

特に高齢者や慢性疾患を持つ参加者の場合、普段なら問題ない活動でも、体調不良時には大きなリスクとなることがあります。
環境・設備の不備による事故
レクリエーション会場の環境や設備に潜む危険が事故の原因となることも少なくありません。
椅子や車椅子が安全な状態でない、床面に段差や滑りやすい箇所がある、照明が不十分で視界が悪いなど、物理的な要因による事故は予防可能なものが多いのが特徴です。

屋外での活動では、地面の凹凸やぬかるみ、石や枝などの障害物が転倒事故を引き起こすことがあります。

また、天候の急変による強風や雨で、テントや看板が倒れて参加者に当たる事故も報告されています。

これらの環境要因は、事前の会場確認と安全対策によって多くが防げるものです。

コミュニケーション不足による事故
参加者同士のコミュニケーション不足や、主催者からの指示が不明確だったことが原因となる事故もあります。特にチーム戦やグループ活動では、参加者間の連携ミスや意思疎通の齟齬が思わぬ事故を招くことがあります。

綱引きで息が合わずに転倒する、リレーでバトンの受け渡しタイミングがずれて衝突する、ダンスでペアの動きが合わずに足を踏まれるなど、コミュニケーションに起因する事故は、事前の説明や練習時間の確保で予防できることが多いのです。

過度な競争意識による事故
レクリエーションとはいえ、勝負がかかると参加者の競争心が強くなり、それが事故の要因となることがあります。

「絶対に負けたくない」「チームのために頑張りたい」という気持ちが、安全への配慮を二の次にしてしまうのです。

運動会でリレーのアンカーが無理な追い上げで転倒する、球技で激しいプレーをして相手と接触する、ゲーム中に興奮して周囲への注意がおろそかになるなど、競争心による事故は感情的な要因が強く働いているため、主催者側の冷静な判断と適切な声かけが重要になります。


  【前編】万が一に備える初動対応マニュアル~レクリエーション中のケガ・事故のとき主催者がやるべきこと~(1-2)初動対応の3ステップ

初動対応3ステップ ①安全確保

事故が発生した瞬間、最初に行うべきは現場の安全確保です。
これは被害者本人の安全だけでなく、他の参加者や スタッフの安全も含めた包括的な対応が求められます。

具体的な安全確保の方法について詳しく見ていきましょう。
二次災害を防止する
事故現場では、最初の事故に続いて二次的な事故が発生するリスクが高まります。
例えば、転倒した人を見ようと他の参加者が駆け寄って将棋倒しになる、救助しようとした人が同じ要因でケガをする、救急車の到着を待つ間に交通事故が起きるなどの可能性があります。

発見者は大声で「動かないで!」「みなさん下がってください!」と周囲に指示を出し、事故現場への人の流入を制御します。

同時に、事故の原因となった要因(滑りやすい床、倒れた障害物、壊れた器具など)を可能な限り除去するか、明確に表示して他の人が同じ危険にさらされないよう配慮することが大切です。
被害者を安全な場所へ移動する
被害者の移動は慎重に判断する必要があります。

頭部や首、背骨にケガの疑いがある場合は、原則として医療従事者の指示なく動かしてはいけません。

しかし、現在の場所にいることが更なる危険を招く場合(火災、崩落の危険など)は、適切な方法で安全な場所へ移動させます。

意識がはっきりしている軽傷の場合でも、ショック状態になることがあるため、できるだけ横になれる安全な場所へ誘導し、体温の保持と精神的な安定を図りましょう。

移動の際は複数人で協力し、被害者の体を支えながらゆっくりと行うことを意識しましょう。
他の参加者の管理
事故現場では他の参加者の動揺や混乱が広がりやすく、これが新たな事故やパニックを引き起こす可能性があります。

スタッフの中から冷静な判断ができる人を指名して、他の参加者を事故現場から離れた安全な場所に誘導します。

子どもの参加者が多い場合は、特に細やかな配慮が必要です。

事故の様子を見て怖がったり泣いたりする子どもがいるため、別のスタッフが付き添って心理的なケアを行いながら、保護者への連絡を並行して進めましょう。

初動対応3ステップ ②応急手当

安全確保と並行して、または直後に行うのが被害者への応急手当です。

この段階では医療従事者ではないスタッフでもできる範囲での処置を行い、専門的な治療につなげるまでの「つなぎ」の役割として大変重要な作業となります。

応急手当の際に覚えておきたい処置には以下のようなものがあります。
意識と呼吸の確認
まずは意識の有無を確認しましょう。
「大丈夫ですか?」「聞こえますか?」と声をかけ、反応がない場合は肩を軽く叩いて刺激します。

意識がない、または朦朧としている場合は、すぐに気道確保を行います。

呼吸の確認は、胸の上下動を目で見て、同時に息の音を耳で聞き、頬で息を感じることで行います。

正常な呼吸が確認できない場合は、直ちに人工呼吸や胸骨圧迫などの一次救命処置を開始します。

この際、新型コロナウイルスなどの感染症対策として、可能であれば人工呼吸用のマスクやフェイスシールドを使用できるとなお良いでしょう。
出血への対処
外傷による出血がある場合は、清潔なガーゼやタオルを使って直接圧迫法により止血を試みましょう。

コツとしては出血部位を心臓より高い位置に上げることができれば、出血量を減らすことができるのでおすすめです。

ただし、骨折の疑いがある部位は動かさないよう注意が必要です。

大量出血の場合は、ショック状態を防ぐために足を少し高くして寝かせ、体温の低下を防ぐため毛布やタオルで体を覆います。

出血が止まらない場合でも、圧迫を続けながら救急隊の到着を待ちましょう。
熱中症や骨折等への対応
熱中症が疑われる場合は、日陰や涼しい場所への移動、衣服の緩め、体表冷却を行います。

首、脇の下、鼠径部など大きな血管が通っている部分を冷やすと効果的です。
意識がはっきりしている場合のみ、少量ずつ水分補給をさせますが、意識障害がある場合は誤嚥の危険があるため水分摂取は避けましょう。

骨折が疑われる場合は、患部をできるだけ動かさないよう固定します。
副木となるものが手近にない場合は、健康な部位と一緒にタオルなどで固定する方法もあります。

開放骨折(骨が皮膚を突き破っている状態)の場合は、傷口を清潔なガーゼで覆いますが、突出した骨は押し込まないよう注意しましょう。

初動対応3ステップ ③報告連携

応急手当と並行して、または症状が安定したら、適切な機関への連絡と報告を行います。

この段階では複数の連絡先への同時並行的な対応が必要となるため、役割分担を明確にして効率的に進めることが大切です。

救急要請のタイミングと方法
119番通報は、生命に危険がある場合はもちろん、判断に迷う場合でも早めに行いましょう。
通報の際は、場所、事故の状況、被害者の年齢と性別、意識の有無、呼吸の状態、出血の有無などを簡潔に伝えます。

救急隊員からの電話指導を受けられる場合があるため、可能な限り電話を切らずに指示に従ってください。

AEDが必要な場合や、より詳しい応急手当の方法について指導を受けることができます。
救急車の到着予想時刻も確認し、その間の対応計画を立てられると良いですね。

管理職・上司への報告
事故発生の第一報は、応急手当の実施と並行して管理職や施設の責任者に入れましょう。

報告内容は、発生時刻、場所、被害者の状況、既に行った処置、救急要請の有無などの基本情報に留め、詳細な原因分析は後回しにします。

電話連絡の際は、感情的にならず事実のみを簡潔に伝えることが重要です。

「○時頃、体育館でレクリエーション中に○○さんが転倒し、意識はありますが頭部を打撲しました。現在応急手当を行い、救急車を要請済みです」といった具体的な報告を心がけましょう。

保護者・家族への連絡
被害者が未成年の場合や、成人でも緊急連絡先が分かっている場合は、家族への連絡を行います。

この連絡は非常にデリケートな対応が求められるため、できるだけ冷静で説明能力のあるスタッフが担当します。

連絡の際は、まず被害者の現在の状況(意識があること、呼吸が安定していることなど)を最初に伝えて安心させてから、事故の概要と現在の対応状況を説明します。

「現在病院に向かっています」「○○病院で詳しい検査を受ける予定です」など、具体的な情報を提供し、家族が駆けつける際の目安となる情報も併せて伝えましょう。

後半編について

後半編では、事故が発生した後の具体的な方法など以下の内容について紹介しているので、ぜひチェックしてくださいね。
● 事故が発生したときに記録すべきポイント
● 安心につながるイベント運営のためにできる備え

参考資料

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